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市況レポート「テディベアのマーケットアイ」12月8日号

好評をいただいている、弊社代表・野田隆の市況分析「テディーベアのマーケットアイ」。
ウェブサイトでは、先週の「マーケットアイ」よりトップコラムのみを転載しています。お取引のある皆さまへは、市場動向についてのコラムと併せてお届けしています。購読をご希望の方はお問い合わせフォームよりご連絡ください。

※このレポートは投資家に参考になる経済・市場環境に関する情報を目的としたもので、特定の有価証券の投資を推奨したり、投資勧誘したりすることを目的としたものではありません。また、このレポートは弊社が信頼できると考えられる情報に基づき、独自にこれを分析した見解であり、レポート作成時の執筆者の意見を正確に反映しますが、その内容を保証するものではありません。

⒈金融経済情勢

高市政権の政策11月に打ち出した、21.3兆円の経済対策は、家計支援を目玉に据えたもので、供給力を強化する経済政策は評価できるものの、巨額の財政支出は、インフレを加速させ、個人消費を落ち込ませ、財政の悪化を見越した円安は、購買力を低下させる。賃金の伸びが追いつかなければ、消費者の購買力は悪化する。給付付き税額控除などで現役世代の収入を早急に増やす必要があるが、財政支出の拡大は、金利の上昇を招き、クラウディングアウトにつながるリスクが高まる。その影響は国内にとどまらず、キャリートレードの解消を通じ米国債の利回り上昇などへ波及する。為替を含めた物価対策は、日銀に委ねる必要がある。健全な積極財政を成功させるには長期金利の安定が不可欠で、そのためには、ばらまき的な現金給付を慎み、社会保障費の応能負担、各種補助金の削減や富裕層やキャピタルゲイン増税など不人気な政策の実行が欠かせない。高市政権が続くうちは、トランプ大統領同様、財政支出のアクセルを踏み続ける。スターマー政権の二の舞を避けるには、政策金利を中立金利まで早急に引き上げ、積極的に為替を円高へ誘導しインフレを抑え込む政策を実施する必要がある。日本の長期金利が急上昇した時は、日銀が国債を買い支えれば良いと考える議員が多いが、そうなると最悪の場合、円安がさらに進み、インフレ予想も高まり、長期金利の上昇が止まらなくなる。

日銀の金融政策

1日の植田総裁の講演で配布された補足資料が話題になっている。6月の講演の時よりも、およそ1%実質金利のマイナス差が深い形で示された。今後は、次回利上げの時に日銀が改めて示す中立金利の水準が注目される。現在1〜2.5%となっている中立金利が、0.5〜1%切り上げられると、今後の利上げのパスが早まることになる。

FRBの金融政策
FRBは9日から10日にFOMCを開き、0.25%の追加利下げを行うと見られている。今回利下げをすれば、政策金利は3.5から3.75%で落ち着く。コロナ禍前は、参加者の多くが中立金利の水準を2.5%前後と見ていたが、今は不法移民対策や関税の影響で3%前半に上昇している。ここからは利下げのペースではなく、いつ利下げを止めるかが議論になる。参加者の経済見通しは、開催後に相次いで発表される失業率や物価上昇率によって大きく変わる可能性はある。失業率が急速に上昇したり、物価上昇率が鈍化すれば、追加利下げの観測が強まる。

⒉マーケット動向

日本市場
来週の日銀の政策決定会合で、中立金利の引き上げが明らかになれば、ドル円相場は150円前後まで円高が進むと思われる。日本株は、引き続き米国株に連動した相場が続くが、10年国債の利回りが2%を超えて上昇に歯止めがかからないと、株価は金利の上昇を嫌気して大幅に下落する可能性が高い。米国のAI関連株の神経質な動きも気になる。株価は中長期的には、高市政権の供給力の強化を図る積極的な財政政策をきっかけに、大きく上昇する可能性が高いと予想しているが、そのためには長期金利の安定が条件になる。
債券市場は、高市政権や日銀のインフレや金融政策に対するスタンスが明確になるまでは落ち着かない。マーケットの信認を得られる規律が求められる。それでも、20年債3%や10年債2%は十分買える水準なのは間違いない。

米国市場
今週の米連邦準備理事会で利下げが予想される裏で、米長期金利が上昇している。来年春の大型減税に伴う税還付や、データセンター建設などの大型投資が続き、消費者物価も下がりにくく、利下げの打ち止めを織り込み始めているという見方が強まっている。債券市場は、インフレとともに財政赤字の拡大に伴う国債の増発を警戒している。
米連邦政府の債務残高は足元で38兆4000億ドルに達しており、利払費は25会計年度2兆1200億ドルと過去最高を更新している。財政赤字が米金利を構造的に押し上げる要因になっている。
米国のAI関連株は長期金利の動向に敏感で、米長期金利が反転上昇すると、米国株の調整は避けられない。AI株への活発な投資は、富裕層の懐を豊かにし米経済を下支えするが、投資家の楽観的な見方が、将来の株価の調整を引き起こすことになる。2日に発表されたOECDの経済見通しやBOEの報告書によると、米国のAI関連企業の資金調達は、株式による調達に加え、プライベートクレジットや商業用のモーゲージ証券等による借り入れに依存していて、収益性が落ち疑念が生じると複数の金融商品を通じて、デフォルトリスクが連鎖的に高まる可能性があると指摘している。それに関して、米国の銀行は自らの資金提供で膨らんだ、バブルから身を守るため、活発にCDSを利用している。Bloombergによると、AAAのMicrosoftのCDSのスプレッドが30ベースシス前半まで広がっている。モルガンスタンレーは、SRTと呼ばれる取引を通じてAI関連のリスクを移転することを検討しているという。これにより銀行は、貸付の10%程度のデフォルトリスクを回避できると言う。

今週は米FOMC会合があるが、焦点は26年の利下げペースに対する見方で、次期FRB議長と想定されるハセット委員長は利下げを推し進めると期待されているが、パウエル議長の任期の5月までは利下げは据え置くとの見方が有力で、市場は短期的に材料出尽くしとなる公算が大きい。
米国債券市場では、不冴な経済指標が発表され国債利回りが低下して当然と思われる中で、日本国債の利回りの上昇に連動して上昇した。米国が引き締めを開始して以降、円を借りてドルで運用するキャリートレードは高いリターンを上げてきたが、日本国債の利回りが競争力のある水準まで上昇すると、日本の投資家が米国債から資金を引き上げ日本に戻すことが予想されている。既にその動きが始まっているのかもしれない。今後の日銀の政策金利の引き上げのスピードや、日本国債の動向によっては、キャリートレードのアンワインドが一層進みかねず、米国債下落、ドル安が加速する恐れがある。
来年の米国経済については、2%程度の成長を予測するエコノミストが多いが、米国経済はAI関連への依存が大きく実態はかなり脆弱になっていると思われる。
米国の25年1月から6月のGDP成長率1.6%のうち、過半の1%をAI関連が占めており、米国テック大手4社の4月から6月の設備投資額は950億ドルで、242億ドル分のデータセンターの新設計画が、住民の反対により阻止され、今後のAI開発の障害になる恐れがある。
                                          以上

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